恥じをかくことの大切さ。避けていると成長できない。
20年ほど前、大学院で心理カウンセリングを勉強してました。
当時のカウンセリングの方法で私が特に興味があったのは、認知行動療法です。
この療法の1つに暴露療法というものがあります。
その具体的技法として「恥への挑戦」というものがあり、
それが今も印象深く、面白かったので紹介してみたいと思います。
誰だって恥をかきたくない
誰だって皆、人前で恥をかきたくないものです。
しかし、その恥をかく可能性がある環境や行動を避け続けていると、
その環境や行動が段々と怖くなっていきます。
しまいには、その恥をかくことが世界の終わりとまで考えてしまうこともあります。
その膨れ上がった誤った考えを「認知の歪み」といい、
その歪みを歪みであったと気づかせるのが認知行動療法です。
恥への挑戦
その認知の歪みを気づかせる認知行動療法の1つとして
暴露療法の「恥への挑戦」という技法があります。
この療法の第一人者にデビッド・D・バーンズという教授がいます。
バーンズ教授の著書(注1)のT氏という男性の例で、この技法をみてみます。
T氏はとても汗かきで、人前で汗だくになることを大変恐れていました。
自分のシャツの脇の下の汗の跡を見れば、誰もが嫌悪感を抱くと思い込んでいたのです(認知の歪み)。
彼は汗をかくことを心配するあまり、特に夏は家にこもりがちになってました。
そんな孤独な生活にうんざりした彼は、積極的に社会と関わりたいと願い、
バーンズ教授から「恥への挑戦」の技法を受けることになります。
恥への挑戦とは、公衆の前で意図的にバカげた行動をとり、
それでも世界は終わらないことを認識する技法です。
(注1)参考文献:デビット・D・バーンズ(訳・林建郎)「不安もパニックも,さようなら」星和書店(2011年12月)
恥への挑戦の具体例
このT氏の「恥への挑戦」はこうでした。
汗をかくためにジョギングをして、さらにスプレーで
顔や脇にたっぷりと水を吹き付けます。
そしてびっしょりと濡れたところでコンビニへ入り、
店員や客たちがいる前で、自分の脇下を指さしながら、
みんなに聞こえるように
「今日はなんて暑い日だ!、私をみてくれ、汗でずぶ濡れだ!」
と大声で言うのです。
勇気を振り絞ってこの挑戦を実行した彼に対して、
多くの客は彼を無視して自分の用事に専念していました。
そして他の数名は彼に話しかけて、彼のおふざけを楽しんでるようでした。
結果として、彼に対して不快な態度を表した人は誰もおらず、
親しみのこもった反応を示す人が多かったことに彼はショックを受けたのです。
そしてこの経験は、その後に彼が他者と積極的に関われるようになるきっかけとなりました。
なぜ「恥への挑戦」は彼にとって効果的だったのでしょうか?
それは、彼の否定的な思考が、まったく根拠がないことを
実際の自分の行動で発見することができたからです。
長い間、頭の中で思い込んでいた外の世界に対する考えが、誤りであることに気付いたのです。
あなたは恥をかくことを避けていないか?
T氏の例は、ちょっと極端かもしれませんが、
誰もが多かれ少なかれ歪んだ思い込みをもっています。
そしてその思い込みから一定の行動に対して恥や恐怖を感じ、
その行動を実行することに躊躇します。
その歪んだ思い込みに対してよく言われるのが、
「自分が思うほど他人は自分に興味が無い」という現実です。
T氏の「恥への挑戦」の結果も、その現実に気づかせてくれました。
自分が躊躇する行動について、他人はあまり興味がなく、
さらには好意的に感じてくれる人もいるという現実に気づけば
その躊躇する行動(注2)も、踏み出し易いのではないでしょうか?
(注2)犯罪や明らかに他人を傷つける行動は例外ですが…
編集後記
急に涼しくなりましたね。
秋を感じると、何故か寂しい気持ちになるのはなぜでしょう?