法人が生命保険料等を支払た場合の基礎知識
少し前に、法人の生命保険料に関する税務の取り扱いについての研修会に
参加したのですが、わたしの生命保険に関する基礎知識が不足している
せいもあり、講義内容がとても難解に感じました。
税務の専門家であるわたし(一応、税理士です…)でも難解に感じたので、
会社の経理の方や一般の人にとっては、もっと理解しにくいんだろうなぁと思い、
生命保険の基礎に立ち戻って、この記事を書いてみました。
生命保険とは
大別すると、以下の3つの保険商品に分けられます。
・養老保険(満期になると保険金が受け取れるもの)
・定期保険(掛捨て)
・混合型(定期保険付養老保険)
上記の商品を主のものとし、さらに補助として傷害特約を追加できたりします。
傷害特約とは、保険期間中に病気やケガ、介護が必要になった場合に
保険金が受け取れるようになる追加の保険契約です。
以下で、養老保険と定期保険についてもう少し詳しく説明したいと思います。
養老保険料とは
養老保険の支払保険料(養老保険料)は、3つの部分で構成されています。
・積立保険料:満期保険金(保険期間終了後に生存している場合に受取る保険金)を
保険会社が将来支払うために積立てていく料金部分
・危険保険料:保険期間中に被保険者の事故(死亡・ケガ・病気など)が生じた場合に
死亡保険金等を保険会社が支払うために準備する料金部分
・付加保険料:保険会社の利益や経費に充てるための料金部分
上記のように、養老保険は、生存保険金を将来給付してもらう貯蓄の面(資産の形成)と、
保険期間に死亡、病気、ケガをした場合の保障(安心料)の面を持っています。
養老保険料の税務処理
このような養老保険料の2面性から、税務上の処理は下記のようになります(法人税基本通達9-3-4)。
1.「①生存保険金の受取人=法人+②死亡保険金の受取人=法人」の場合
→ 保険料は全て資産計上
2.「①生存保険金の受取人=法人+②死亡保険金の受取人=被保険者の遺族」の場合
→ 保険料の1/2は損金(被保険者が役員のみは給与)計上、残り1/2は資産計上
3.「①生存保険金の受取人=被保険者+②死亡保険金の受取人=被保険者の遺族」の場合
→ 給与として計上
定期保険料とは
定期保険は、契約期間内に死亡した場合のみ保険金(死亡保険金)が支払われる生命保険で、
保険期間が終了しても生存保険金は受取れず、掛け捨てとなります。
したがって、一般の定期保険料の構成は、上記で説明した危険保険料と付加保険料のみ
となり、積立保険料の部分はありません。
ただし、現代の長寿社会により保険期間が長期化した定期保険が増えてきたことにより
前払(積立)保険料に相当する部分が一時期発生する定期保険が多く出てきています。
本来、長期の定期保険は、保険期間前半の保険料は死亡する確率が低いので安い料金
にして、後半になるにつれ高くするのが本筋です。
しかし購入者に受け入れ易くするために、各年の支払保険料は定額となっています。
その結果、前半の保険料には前払いの部分が上乗せされています。
この前払いの部分は、中途解約した場合、解約返戻金として戻ってくるので、
事実上、積立保険料と同質の部分が生じます。
定期保険料の税務処理
上記で説明したとおり、一般的な定期保険には積立保険料部分がないので、
期間の経過に応じて損金算入(支払日の属する事業年度に損金算入)されます。
*短期払い(保険期間よりも短い期間で保険料を払い終えるもの)は保険期間に均等額で損金算入
なお、この一般的な定期保険に該当(法基通9-3-5・令和元年改正)するかどうかの判断として
・保険期間が3年未満
・最高解約返戻率(注1)が50%未満(注2)
であれば、一般的な定期保険とされます。
(注1)最高解約返戻率とは、中途解約した場合に支払った保険料に対して戻ってくる解約金の最高額の割合をいいます。
(注2)最高解約返戻率が70%以下で、1人当たりの年間保険料が30万円以下であれば、この一般的な定期保険とされます。
もし、一般的な定期保険に該当しないもの(法基通9-3-5の2)であった場合は、
前払い部分が多額に含まれている定期預金とされるので、
損金計上される部分と資産計上される部分に分けなければならなくなります。
なお、損金計上部分と資産計上部分の分け方は、最高解約返戻率の違いにより3パターンに分けられますが、
これが複雑な内容ので、このブログではその説明は省略させていただきます。
ここでは、一般的でない定期保険は支払った保険料をそのまま損金にはできないことを
覚えておいてください。
令和元年の通達の改正、新設でさらに難解に
法人の定期保険の税務の取り扱いについて、一般的でない定期保険については、今まで
個別に通達(法人税の法令について、行政機関がどう解釈すべきかを指示したマニュアル)が
定められていました。
保険会社ではその個別通達に該当する定期保険商品では、支払日に全額損金算入でず、
売れないので、それに該当しない商品を開発して販売し、購入した法人の多額の節税
を許してきました。
国税庁では、このような極端な節税を防ごうと、
令和元年の法人税基本通達9-3-5の改正と9-3-5の2の新設を定め(今回の説明内容のことです)、
今までの個別通達を廃止し、統一しました。
しかし、この改正と新設で税務処理がより複雑で難解となり、税務を取り扱う人たちにとっては
大変(自分も含め)になりました…。