青色個人事業者が繰戻し還付(前年に支払った所得税の還付)を今年の確定申告で請求する際の住民税等の注意点
飲食店などを経営している個人事業者が、コロナ補助金等の受給で
令和3年分については予想以上の黒字で、多額の所得税を納めた方が多いかと思われます。
しかし、令和4年分はコロナ補助金が前半で終了し、結局当年の事業は損失(赤字)に
なってしまった方もいるかと思われます(私のお客様にも該当する方がいらっしゃいます)。
このような個人事業者で青色申告の方は、今回の所得税の確定申告で別途還付請求をすれば
前年に納めた令和3年分の所得税の還付を受けることができます(復興特別所得税は対象外)。
ただし、住民税などの地方税法については、この繰戻し還付制度がありませんので
地方税法上は、そのまま3年間の「純損失の繰越し」制度が適用されます。
ですから、一部の市区町村では、この事業等の純損失について、
「繰戻し」ではなく、通常の「繰越し」手続きを別途提出する必要があります(地方税法32⑧、313⑧)。
この手続きを必要とする市区町村では、それを怠ると令和6年分以降の住民税、
事業税、国民健康保険料などが本来より高くなる可能性がありますので注意が必要です。
*上記書類は、所得税の繰戻し還付を受ける際の請求書
目次
市区町村へ繰越控除明細書を提出する必要があるか確認すること
青色申告者に対して所得税では繰戻し還付の制度がありますが、地方税法ではありません。
よって、所得税においてこの繰戻し還付を適用した場合、所得税と住民税とで、
翌年以降に繰り越す純損失の金額が、異なることとなります。
所得税と住民税とで、翌年以降に繰り越す純損失の金額が異なる申告をする場合には、
一部の市区町村では、その年の3月15日までに「住民税申告書の附表【事業所得等に係る純損失の繰越控除明細書】」
を提出する必要があります。
ですから、ご自分の市区町村がこの繰越控除明細書の提出を要するのか確認が必要です。
この提出を怠ると、住民税などの地方税、国民健康保険料が本来より高くなる可能性があるので注意が必要です。
*上記画像は、鹿児島県指宿市の繰越控除明細書
提出を要しない市区町村については確定申告書・第四表(二)に明記
ちなみに、私が住んでいる杉並区の区民課税係へ繰越控除明細書の提出が
別途必要かどうかを問い合わせてみたところ、提出は不要とのことです。
杉並区では所得税の確定申告書の方で、繰越し還付であるということが分かれば、
それで事足りるとのことでした。
では確定申告書の手続きのみで、所得税と住民税とが、翌年以降に繰り越す純損失の金額が
異なることを明記するにはどうすればよいのでしょうか。
その記入例を示しますと、
確定申告書の第四表(二)の81「青色申告者の損失の金額」の上段にカッコ書き
として「住民税△2,000,000円」と繰戻し還付制度の無い住民税側の当年純損失の全額を記入し、
下段には、繰越し還付により前年の所得金額と相殺した後の当年純損失の残額△300,000円を
所得税側として記入する処理をします。
*上記は所得税と住民税とで繰り越す純損失の金額が異なる場合の第四表(二)の記載例
国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、第四表(二)を編集できない
このように確定申告の提出だけで、所得税と住民税とが、翌年以降に繰り越す純損失の金額が異なることを
示すには、上記ように第四表(二)で一工夫する必要があります。
この処理を国税庁の確定申告書等作成コーナーの第四表(二)で行えるかどうか試してみました。
どうやら、第四表は自動計算で作成されるのみで、修正や追加の編集はできないようです。
ですから、この編集ができる他の確定申告ソフトで対応するか、手書きで提出するしかありません。
まとめ
以上、当年に事業の損失が出た青色個人事業者が、前年に納めた所得税を
還付請求する際の住民税等に関する注意点、及びその手続きについて述べてみました。
この繰り戻し還付制度のように、国税と地方税とで適用が異なると、
手続きが余計に増えたり、記載方法も複雑になったりします。
国や地方公共団体も、もう少し納税者のことを考えてほしいものです。
参考文献等
・『純損失の繰り戻しによる還付請求書の記載』天池健治、佐々木信義(中央経済社2020.12)
・指宿市ホームページ:https://www.city.ibusuki.lg.jp/main/kyosei/zeikin/jumin/page024988.html
編集後記
現在、週1~2日のペースで国税局の確定申告電話相談センターの仕事をやっています。
朝から晩まで一日中、電話で納税者からの相談を受ているせいか、翌日も疲れが残ります。
もう若くないので回復が遅い?